スポンサーリンク

1286枚目「追試験」

墨の決闘者、キリアン

Killian, Ink Duelist / 墨の決闘者、キリアン (白)(黒)
伝説のクリーチャー — 人間(Human) 邪術師(Warlock)
絆魂
威迫(このクリーチャーは2体以上のクリーチャーによってしかブロックされない。)
あなたがクリーチャーを対象とする呪文を唱えるためのコストは(2)少なくなる。


「エムブローズ学部長を父親に持つ者にとって、二位に甘んじるという選択はあり得ない。」
2/2

もしかしたらキリアンだったかもしれない。





これは『もしもウィルとローアンがストリクスヘイヴンに入学していなかったら』という”いふ”の物語。

いわば「ストリクスヘイヴン限定構築


五つの大学から成る魔法学院ストリクスヘイヴン。
次元:アルケヴィオスにて五体の古竜が極めし魔法を若き魔道士が集い学ぶ学問の中心地である。

その闇に。大図書棟に束ねた魔法を。あるいは、より計画に役立つ新参を奪うべく暗躍する秘密結社がある。
仮面の潜入工作員、オリークたちが庭園に集う。文字通り暗躍、隠密に長けた者たちが、一堂に会する夜。

ーーー成就の刻が来たのだ。
「支配に問題はないか」仮面の首領、エクスタスが男に尋ねる。「これほど多くの『魔道士狩り』を一度に操ろうとしたオリークはいない。」
男は頷いて答える。「俺はお前が抱える魔道士どもとは違う。」
事実、この男は異世界からの訪問者。首領との取引に応じ、オリークに加わった新参でもある。

確認を済ませた首領はただ一つ。命令を待つ工作員たちに告げた。

「攻撃を開始せよ」


ストリクスヘイヴンのキャンパスを昆虫のような甲殻が満たす。
鋭利な脚で規則的に進み、甲殻からあふれ出るかのように伸びる紫の棘。、
頭部すら覆われ、露出するは捕食のみを目的とした牙を覗かせる大口。
そこから漏れるは『飢え』を告げる金切り声。
寮からあふれ出る生徒たちは、伝聞にのみ知るそれを改めて恐怖した。
『魔道士狩り』と。

戦闘に秀で剣を振るう生徒。学部長の元へ下級生を先導する生徒。
そして、学び舎を。時に厳しく愛し信じる生徒を守る学部長。
惨たらしくも誇らしく、ストリクスヘイヴンの夜を散らす。


エクスタスは片手を立派な本棚に走らせる。
アルケヴィオスに留まらず、異世界の知恵をも所蔵する大図書棟。
魔道士狩りは陽動に過ぎない。彼は戦禍に乗じることなく真の目的を。その到着を待っていた。

「エクスタス様!」

名前を呼ぶ声に彼は振り返った。擦り切れてページが黄ばんだ重々しい書物を抱え、工作員の一人が近づいてきた。

「これもまた見逃され、腐るがままにされていた、一つの眩い知恵の作品だ。目的に違うなら、奴らはすぐさま我らを投げ捨てる。」
彼は情けを胸に、片手を差し出した。
「君のあらゆる働きに報いよう」

工作員がその手を取ろうとした瞬間、エクスタスはその先にシルバークイルのローブを纏った生徒の姿を目撃した。
息も絶え絶えに、だが純粋な決意の表情を浮かべ憎悪の呪詛を織り上げる。

素顔晒せぬ臆病者!
こそこそ這いずる日陰者!
無能に何もできやしない!
無駄な時間を苦悶しろ!

『言葉』を魔法とするシルバークイル。その完璧な闇の球が放たれた。
エクスタスは躊躇なく工作員の腕を強くつかんで引き寄せ、その体で呪文を防いだ。
工作員の身体は力を失い床に崩れ落ちる。生徒は更なるエネルギーを集めようとしていたが、消耗からか上手くいかない。
エクスタスは弾ける稲妻を放ち、それは生徒へと命中した。

生徒が倒れると、図書室は再び静まった。
今や動かなくなった工作員の身体を彼は見下ろした。
そしてそれ以上留まることはせず、エクスタスは進み――

ほどなく、シルバークイルの生徒が起き上がった。


「キリー!」静寂の図書館でダイナの悲鳴にも等しい呼び声が響いた。

シルバークイルの生徒――キリアン・ルーがそれに応じる。

「ここだ。僕は、大丈夫」
今日は決闘続きだった。教授との決闘授業、『虹の端』亭にてウィザーブルームのヴェックスとの決闘。
そして、その後『一日に二回も決闘なんてね、キリー』を嘯き、その三回目の相手となった同級生・・・オリークの工作員。
彼女を連れ去る『魔道士狩り』の後を追いストリクスヘイヴンへと帰還したキリアンは、騒乱をよそに大図書棟へ向かう一団を発見したのだった。

まだ立ち止まるわけにはいかない。
「早速光の、白の魔法が役にたったよ」
エクスタスが放った稲妻は、かつてのキリアンなら間違いなく即死するほどの威力だった。
彼自身の成長が。闇だけでなく光の魔法をも習得し、父の意向のみならず『自由な創造』を志したことが功を奏した。


とは言っても、キリアン自身を守るべく唱えた呪文は完全ではなかった。彼の身体を強化することこそ適ったが、呪文を抵抗しきるには至らない。
だがもう失敗しないだろう。歴史上最も偉大な墨魔道士の一族だからではない。学部長に就く父直々指導によるものでもない。
『同じ過ちを繰り返さない』秀才にして、より高みへと至ろうとする日々の研磨こそがキリアンをキリアン・ルーたるカリスマに造り上げている。

ダイナは肩に蔓で留めた緑色の缶から液体を注ぎ、キリアンへ向けた。
薬草に熟達し、『虹の端』亭からの顛末を見届けキリアンを追ってきてくれた彼女が用意した薬草茶だ。
キリアンは拒むことなくそれを飲み干した。それを止める友人もいない。
「さっきも言ったけれど・・・」
「わかってる。材料は聞かないよ。明日、いや、明後日も僕がトイレ籠りになるともね」
内臓が溶けることはないだろうと祈りつつ、蔦掴みの歯を味わいながらいくらかの体力を取り戻したキリアンは、頭上に墨の球体を浮かべその数を確認する。
三つ。さらに、ローブの中から黒いインクが滴り、墨獣ドーコーが実体化したが、すぐに飛び去って行った。


キリアンの意図を察し、いつも戦いを助けてくれる頼りになる相棒。だが、オリークとの決闘の前に。
雄弁を武器とするシルバークイル屈指の秀才は相棒との間にのみ言葉を交わすことなく通じ合っていた。

「行こう」


神託者の聖堂。アルケヴィオスにて最も賢く、最も熟達した魔道士が任を継ぐ「神託者」を称える地。


かつてエクスタスは自らこそが神託者に相応しいと豪語したが、それが五体の始祖竜に届くことなく堕落した一介の学徒だった。
彼は死してなおこの広間にて石に刻まれた神託者たちに、やはりこの場にふさわしくないと嘲りを感じとった。
それももはや些細なことだった。歴代の神託者はもはや過去の者に過ぎず、全てが終わった時には死んでいることに感謝すら覚えるだろう。

彼は天井へと視線を移す。仮面をかぶってもなお、その光には目を狭まずにはいられない。
ストリクスヘイヴンに迸るマナの交錯。魔力が大渦を成し、その下に一輪の石の輪が座していた。
渦に等しく古より続く封じ込めの円。

(そうだ。これがやってくれる)

エクスタスは手に持った書物を開き、目当てのページを開く。

廊下から足音が響き、オリークの工作員たちが入ってきた。
エクスタスは頷き、顔に広がる軽薄な笑みを仮面が隠してくれることを感謝した。

「宜しい。打ち合わせの通りに並べるのだ。時は来た」

工作員たちはひとつひとつ、書物や巻物を首領の前に注意深く置き、やがて彼の前には半円状に古の書物が開かれた。
今この時を一瞬だけ味わうと、エクスタスは読みはじめた。


キリアンは時折掌を確認しながらエクスタスの足跡を追う。
親書き、あるいは親の墨魔法。本来それは約束を忘れさせないために、あるいは忘れ物をしないようにと雄弁術の教師や両親が子供たちへと用いるものだった。
この魔法を応用したもので、ドーコーを追尾させその道筋を知らせていたのだ。

神託者の聖堂に辿り着くとその中で渦の揺らめく光に照らされ、オリークたちの中央で、一人が巨大で重々しい秘本から何かを読み上げていた。

大気中の秘儀の流れの変化を。強大な闇の魔法が動き始めていることを二人は感じる。
「おそらくあの男は交錯に繋がっている」ダイナにだけ聞こえるようにキリアンは告げた。
「それでも、行くしかない」墨の球を一つ、ダイナの下に残し仮面の魔導士たちへと向かっていった。

いくら才に恵まれ、それに甘んじることないキリアンでも、まだ発展途上の学生なのは事実だ。
対するオリークはこの日に向けて思考を費やしてきた手練れ揃い。既に侵入者を察知すると、両の手に紫に迸る炎を照らしていた。

キリアンが一人で戦いに挑んだのは決して無策ではない。ダイナを伴い、残したのも自らが敗れても事態を知らせる次の一手。身をもって知る薬草茶の効能から、一命をとりとめる可能性に賭したのも一因。

彼女こそが生命線だという判断で――いや、『後ろにダイナがいる』と言う事実がキリアンを強くしていた。

なにより、彼は今なお飛び交う相棒を。友人を。ストリクスヘイヴン信じていた。

頭上に浮かべた二つの球を何本もの触手へ弾けさせオリークたちへと差し向ける。
殺意無くして倒せる相手ではないかもしれない。それでも、それでも『まだやり直せる』と仄かな言葉を込めて。

だが空間にひびが入り、墨は球体を保ったままキリアンの元へと戻っていた。『まだそれを使うべき時ではない』と、忠告を受けたかのように。

青と緑のリボンが宙に舞う。幾数も連なりオリークを壁へと貼り付け、またいくつかは鞭のようにオリークたちを跳ね除けると、そのまま締めあげていた。

「こんなに早い再会だと思わなかったわ」

「私もだよ――ジモーン・ウォーラ」


「いま一度確認するが、君のいるべき場所はそこで合ってるかな」交錯と繋がり膨大な魔力を手にしたエクスタスだけはジモーンの拘束を免れていた。
「愚問ね」ジモーンは断じた。証明された問いを改めて解き明かす必要などない。

クアンドリクスの神童、ジモーン・ウォーラ。
彼女の祖母はストリクスヘイヴンに名を残す偉大な教授の一人・・・だった。ストリクスヘイヴンを去るまでは。
祖母が研究していた未解決の推論は、エクスタスの目的に近かった。それ故に、オリークに襲撃されるも屈することなく、拷問の末に記憶喪失呪文をかけられてしまう。
これにより、ストリクスヘイヴンでの居場所を無くし、魔法に冒された者の療養所に閉ざすことになったのだ。

以前、エクスタスは孫娘ジモーンへと接触を図りオリークへと勧誘していた。
だが、彼女は祖母の勇気を知っていた。
家族の記憶すらおぼろげな祖母から誕生日に送られてくる、リボンに込められた愛情を知った。
言わば、ジモーンにとってエクスタスは仇敵に他ならない。

キリアンは知る由もない関係性、願ってもない戦友に感謝を述べる間もなく、エクスタスは魔法を放った。
標的は、キリアンでも、ジモーンでもなく――

「此度は勧誘ではないのでね。躊躇なく、効率よく削がせてもらう」

潜んでいたダイナへと稲妻が走る。キリアンの球の展開よりも、『言葉』を発するよりも速く、それは届いた。

土埃が舞うその上で、ダイナが宙に浮きゆっくりと床に着地した。安否は確認するまでもない。
大きな体が影を象り「こんな場所があったなんてね!一つくらい霊魂の彫像だったりしないかな」と、キリアンのよく知る声が聞こえた。

「・・・君は本当に調査が好きだな!」歓喜を込めて呼びかける。

「クイント!」

「キリアン・ルー!」

ロアホールドの生徒。器用な鼻を持つロクソドン。そして、キリアンに光の道筋を示してくれた友人、クイントリクスが姿を見せた。

ストリクスヘイヴンを代表する優等生が集ったとはいえ、交錯と繋がるエクスタスとの差が依然として縮まることはない。
身振り一つで稲妻を走らせると、それらは同時にキリアンたちへと降り注いだ。
防御呪文を、自分のみならず皆を・・・だが、その呪文に引き裂かれるのではなく、氷の破片を浴びた。

「随分と雑に砕いてくれたわね。彫刻になんてできやしない」

プリズマリのルーサが張った氷の障壁が砕かれたのだ。

度重なる妨害に意もせず。いくら集おうが終末に変わりはないことを。
そして、自身が成すことを知らしめるべく。
交錯の下で、エクスタスが両腕を広げていた。

「甦れ、偉大なるものよ! 来たれ、血の化身よ! この不公平な世界に怒りを解き放つのだ!」


――広間全体が血に満たされている。キリアンのでも、ダイナのでも。いや、この場にいる誰のものでもない。
仮にそうだったとしても足りないほどの血の河川。青く輝いていた交錯も、今やそれに等しい真紅の光を放っていた。
骨を鳴らす咆哮が広間を震わせ、壁にひびを走らせて何世紀もの埃を降らせた。
更なる亀裂が部屋に走り、天井の破片が降り注ぐ。
クイントは咄嗟に皆を集め、ルーサが氷の障壁を造り上げた。

交錯の下にいるものは、聞いたことのないような吠え声を上げた。
その咆哮は彼の心臓にまで届き、あらゆる類の暴力と死を約束していた。
一秒ごとに、その生物は魔力の渦から身体を少しずつ引きずり出していった。
頭上から一本の垂木が落下し、すぐ目の前で凄まじい音とともに砕け散った。

「私は自ら何も成し得ていないと奴らは思っている――自分たち、高尚なる神託者の列に加わるにはふさわしくないと」

エクスタスは笑みを漏らした。

「だが今。お前たちは何処にいる? 火急のこの時に誰が助けてくれる?」

血の化身の斧が彫像のひとつを叩き、かつての神託者の似姿を真二つにすると、エクスタスは更に狂った笑い声を上げた。
彫像の頭部と挙げた腕が折れて落下し、床で砕けた。

古の青銅の兜。巨大で、わずかに人型をしたものが立ち上がった、四本の太い腕のそれぞれ先に、刃と棘だらけの物騒な武器を掴んでいた。
戦のための生物、それは明白だった。唯一の目的は、何世紀にも渡って続いてきたものを壊すこと。

「・・・あいつでやるってことね」
ジモーンは自らを拉致してきた際に交わしたエクスタスとの会話を思い起こしていた。

『ストリクスヘイヴンは魔法を溜め込み、手放そうとしない。我々がそれを破壊すれば、この世界の誰もが魔法を学べる。そのような世界を想像するといい――魔法が少数の手にだけに留まらない世界を』

「彼は学校を破壊しようとしているわ」声を震わせながら、エクスタスの目的を伝えた。

これこそがエクスタスの計画だったのだ。自分たちはこれを止めようとしていたのだ。
そして今、自分たちの失敗は全員の死を意味するかもしれない。


建物が揺れ、古の世界の血の化身は並ぶもののない怒りとともに咆哮した。
そしてエクスタスにとって、世界はようやく正しい姿になろうとしていた。
彼はゆっくりと振り返り、神託者の広間が崩れゆく光景を満喫した。
自分を神託者の座に加えなかった愚か者たち。
それを証明するために長い年月を要したが、また次の彫像が倒れて何千もの破片に砕けると、待つ価値はあったと彼は独りごちた。

だが血の化身の声が途切れ、憤怒の咆哮が断ち切られると、エクスタスの笑みも揺らいだ。
彼は振り返り、そして凍り付いた。荒々しく明滅する交錯の赤い光を背後に、血の化身はひきつり身悶えしながら動いていた。
このような様子は、これまでの多くの失敗の中で見ていた。ありえない。

計算は確認していた。上手くいくはずだった――この世に知られる呪文は何であれ、アルケヴィオスの交錯のひとつで十分な魔法エネルギーが確保できる。
これでも足りなったというのか? そして彼は目撃した。
血の化身の頭上にぼやけた真紅の渦――いや、光輪が浮かび上がっていた。


メイジタワー。ストリクスヘイヴンの生徒たちが行う団体競技のスポーツ。
五つの大学を象徴するマスコットを、魔法を駆使して奪い点数を競い合う。

奇しくも、キリアンが父から居残りの叱責を受ける羽目となった一戦。
目の前でプリズマリの選手が放った、マスコットのコントロールを奪う赤い光輪が彼に勝機をもたらした。

「シルバークイルとプリズマリの試合、覚えてるかな」

注目の一戦だっただけに、その結果は他の大学にも評判となっていた。
「召喚された生物にだけ機能する、単純な技。なるほど!」クイントはその試合を見届けていたのですぐに察する。
ジモーンも、友人たちが交わすメイジタワーの試合について議論から聞き及んでいた。

「とにかく僕を、信じてくれ」
キリアンは”同じ失敗をしない”。失敗を糧に。より先に進む術を心得ている。
そして過去から学ぶその謙虚な姿勢は、ロアホールドで学ぶロクソドンがもたらしてくれたものだ。

「あれは、マスコットと同じだ。 奪い取ってやればいい――それだけだ」


「マグマオパス!(大いなる芸術を!)プリズマリ!」キリアンは叫んだ。
ルーサは言われずとも、と内心思いつつも魔力の漲りを実感し――「できたわ」
感情の高ぶりこそが彼女の魔法の真髄だ。


『まだ完成しない』芸術家の執念が。恩師の投資に報いる未来への渇望が。彼女とストリクスヘイヴンを一時的に繋いだ。
そして、それをキリアンの『言葉』が後押ししたことで血の化身の頭部に支配魔法を示す赤い光輪を成したのだ。

だが、一瞬と言えども交錯との接続は多大な負荷をもたらし、ルーサは倒れ込んでしまう。
光輪もまた、瞬き消えかける。が・・・

「使役学はクアンドリクスの基礎よ!」神童ジモーンがそれを引き継いだ。

命じるまでは適わないが、エクスタスの指揮を奪うには充分だった。
ほどなく血の化身を呼び起こした召喚呪文は暴走状態となり、血まみれの身体は不自然に伸びて膨れ崩壊していく。
その最中、恐るべき叫びを上げ、巨大な鉄の剣を振るい、信託者の広間を破壊していく。
降り注ぐ瓦礫をクイントは可能な限り遠ざけ、キリアンは残した墨の球を使い切り友人たちを守り抜く。

「ガキが! 一体どうやって――」

血の化身が巨大な手を伸ばして彼を掴むと、その言葉は途切れた。
無残な粉砕音が弾け、エクスタスは黙った。


サボり癖のある奴らと怠け者の溜まり場が、今宵は祝勝会の会場となった。

『ルー家の者は自らに相応しい振る舞いを』

学友と共に学び舎を守り抜いたキリアンにとって喜びを分かち合い、さらに親睦を深めるのはまさに相応しい振る舞いだろう。
厳格な父の許しを請うすら必要なく、その父もまた息子を誇りに思うに違いない。
『ファイアジョルト・カフェ』での開催を主張するジモーンを説き伏せる方が難題だった。

『虹の端』亭は大きな円形の建物で、屋根は高いドーム状。
中央に位置するバーカウンターを囲むように、円形の卓と丸椅子が取り囲む。
もちろん、席はすべて生徒で埋まっていた。

憩いの場に賑わいを注ぐのはプリズマリのバンド演奏だが、今は鳴りやんでいる。
この店は常に魔法の決闘に備えていた。卓と椅子が決闘の場の周囲に浮いて固定され、建物がそのまま闘技場へと変化した。
バーカウンターとステージも同じく浮上し、決闘者同士が相手に罵声を浴びせる余地を作り出す。
生徒たちは肉を頬張り泡噴く杯を傾かせながら眼下で決闘に興じるヴェックスとルーサを観戦している。

キリアンは、勝とうが負けようがヴェックスは再戦を挑んでくるだろうな、と予想し杯に口をつけずにいた。
ルーサはルーサで最近は課題に勤しみ、『虹の端』亭に来れずにいた、と彼女の友人からも聞いている。一戦では暴れ足りないだろう。

「キリー、主役なのに飲まないの?」隣に座っていたダイナが声をかける。
「たぶん、次は僕だから」決闘とは言っても腕試しや力量を競う模擬戦というよりもただ、騒ぎに乗じたいだけのもの。
彼自身も今日はそうしようと決めていた。クイントに渡された本から新たに読み取った『言葉』を試したくもある。

「そう。じゃあ――」
ダイナは肩に蔓で留めた緑色の缶から液体を注ぎ、ドーコーがそれを受け取った。


「おかわり、いる?」



※今回はskeb納品物です。リクエストありがとうございました。
※本記事は「マジックザギャザリング」公式サイト掲載のMagicStory:ストリクスヘイヴンのメインストーリー及びサイドストーリーを大きく改変した二次創作です。
※セリフなど一部本文よりそのまま引用しています。問題があると判断した場合はすべての痕跡を消し去ります。

Skeb - Loading app...

参考文献

マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト

「ストリクスヘイヴン:魔法学院」メインストーリー第3話以降にサイドストーリーの人物描写を組み込む。

余談

Twitter上で行われたイラスト企画「#MAGICTOBER」というものがある。

これに勝手に乗っかりブログ記事を書き「19日Fear/畏怖」に”IF”の物語を引っ掛けて書き上げたものなのだが、キリアンって畏怖じゃなくて威迫だった。あと12日あたりで書かなくなってた。





 

広告

神河:輝ける世界
発売日: 2022年2月18日
ドラフトブースター Amazon 駿河屋
セットブースター Amazon 駿河屋
コレクターブースター Amazon 駿河屋

フレイバーテキスト

  1. skebリクエストした者です。
    想像以上の大作をありがとうございました! めっちゃ良かったです!!(語彙)

  2. ええ作品やこれは…

  3. 実は小説家なのでは?

  4. 機械兵団サイドストーリーのストリクスヘイヴン編読んでこれを思い出しました

今日の手札

ポータル

タイトルとURLをコピーしました