Belbe, Corrupted Observer / 邪悪な選督使、ベルベイ (黒)(緑)
伝説のクリーチャー — ファイレクシアン(Phyrexian) ゾンビ(Zombie) エルフ(Elf)
各プレイヤーの戦闘後メイン・フェイズの開始時に、そのプレイヤーはこのターンにライフを失ったあなたの対戦相手1人につき(◇)(◇)を加える。(ダメージによりライフは失われる。)
「エヴィンカーになりたいなら、まず同情心という重荷を捨て去ることね。」
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邪悪な選督使、ベルベイは―――
MTGを彩る背景世界の物語。その中でも特に壮大で、『ウェザーライト』(1997年6月)から『アポカリプス』(2001年6月)の長きに渡り中心であり続けたのが「ウェザーライト・サーガ」である。
飛翔艦ウェザーライト号に集いし英雄たちによる多元宇宙を超えた冒険譚。ベルベイは、その「宿敵」が造り上げられたセット『ネメシス』(2000年2月)での主人公である・・・が、カード化されたのはなんと『統率者レジェンズ』(2020年11月)
『ネメシス』 | 『統率者レジェンズ』 |
彼女はファイレクシアの内部事情でただ1つの目的を果たすための機能を持たされた工作員である。
ここからさらに掘り下げていくわけだが、まず彼女を知るには「ファイレクシア」と「ラース」、そしてラースの支配者「エヴィンカー」について記さなければならない。
前提知識注入
ファイレクシア
多元宇宙の中心地:ドミナリア。膨大な魔力を誇るパワーストーンとそれを用いた機械(アーティファクト)により繁栄を極めた「スラン帝国」があった。
ある時、「ファイシス症」という未知の病気が蔓延し、魔法による治癒が困難なことからヨーグモスが対処することになる。彼は人体を機械へと改造、より優れた生命体へと『完成』させる思想を持つ異端の医師。だがそのために、魔法によらず人体を直接治療する医学に精通していたことでの抜擢だった。
ヨーグモスは、プレインズウォーカーから治療目的に放置状態だった人工次元へのポータルを提供される。そこへ患者たちを運び込むと、『治療』を名目とした人体改造を開始する。『機械の始祖』として自らの思想を多元宇宙全域へと広げ、繁栄する理想を描いたのだ。
これが次元:ファイレクシアの起源である。ファイレクシアを危険視したスラン帝国との戦争が勃発すると、ヨーグモスはアーティファクトを活動停止させる「虚無球」を打ち上げ、スラン帝国は機能不全に陥り滅亡する。
しかし戦争最終局面。ヨーグモスは愛人の裏切りに合い、ドミナリアとファイレクシアを繋ぐポータルが封印され、次元間移動が不可能となってしまう。
ファイレクシアは人工次元。いずれ次元規模の崩壊を起こす欠陥を持っていた。
そこで、安定した世界を求めて次元:ドミナリアへの帰還———侵略戦争(インベイジョン)を仕掛けるべく、長きに渡る暗躍を繰り広げることになる。
ラース
次元:ラースは、ファイレクシアがドミナリア侵攻に向け前線基地として利用する人工次元である。
大地はほとんど「流動石」と呼ばれる岩石で形成される。文字通り、あらゆる姿へと変形する石であると同時に、次元を拡張する性質を有していた。
この習性から、ドミナリアを含む異次元から大地を、自然環境をその住民ごと取り込んでおり、非常に混沌とした環境になっている。
この「流動石」をファイレクシアの要塞で製造し続けドミナリアに覆いかぶさり、次元ごと転移させて攻め込む「ラースの被覆」がファイレクシアの計画だった。(後のセット名『プレーンシフト』が指したのはこれ)
エヴィンカー
このラースを統べる、ファイレクシア軍の支配者として据えられるのがエヴィンカーである。計画において最重要な位置となるラースなだけあって、「荒廃の王ヨーグモスの副官」と称されるほど地位は高い。
本題『ネメシス』
前提を注入したところでやっと本題に移る。
第一段階:三人の候補
事の発端は、エヴィンカー・ヴォルラスの失踪である。
彼はラースの支配は元より、ファイレクシアの計画以上に自らの私怨———「ウェザーライト・サーガ」主人公《ジェラード・キャパシェン》への復讐を優先し、変身能力を用いてウェザーライト号へと潜入。計画の要なのに最高司令官不在という異常事態を引き起こしていた。
そこで、新たなるエヴィンカーの選定すべく。ヨーグモスの「眼」となる機能として送り込まれたのがベルベイである。
彼女は以下の三人に可能性を見出した。
クロウヴァクス
「ウェザーライト号」乗組員だったが、守護天使を殺害してしまったことで吸血鬼となる呪いが発動。同乗組員ミリーを屠った後、ファイレクシアへと連れられ改造手術が施された。これにより良心は完全に取り除かれ、エヴィンカーとして必要な能力を獲得。
エヴィンカー最有力候補として再度ラースへと訪れた。
グレヴェン・イル=ヴェク
ラースの戦闘司令官。旗艦「プレデター」艦長としてウェザーライト一行と幾度も戦った武人。
エヴィンカーに全く興味がない。
アーテイ
「ウェザーライト号」乗組員だった若き熟達の魔術師。ウェザーライトをラースから脱出させるために一人残り捕虜となった。エヴィンカーとして必須となる「流動石」をコントロールする才覚を見せつけ候補として躍り出る。
何とか時間を稼いでドミナリアへの帰還を果たそうとしている。
ベルベイは年齢の近いアーテイに好奇心を。いや、それ以上に好感を抱くようになっていく。
素体となったエルフの影響からか、ラースという異世界へ馴染むにつれてファイレクシアの意義へ関心を失い、「ファイレクシアの大使」は「エルフの少女」としてふるまうようになっていった。
「ヨーグモスの眼」としての機能を塞ぐことでファイレクシアの監視を逃れ、自らの独断でアーテイとの交流を”大人の意味も含めて”愛情を深めに深めて、ついには「ラースの被覆」計画の妨害にも至った。
第二段階:隆盛するクロウヴァクス
クロウヴァクスにとってはそもそもエヴィンカーの座は競うものではなく、ただ実力を証明すれば手に入るもの。ベルベイを威嚇し、自らを新たなるエヴィンカーとして任命するように要求するが、ベルベイはこれを拒否。
すると、スカイシュラウドの森を鎮圧することで実力を示そうと行動に移したのだった。
「流動石」により拡張する次元:ラースは、他の次元から環境ごと取り込むことがあった。スカイシュラウドもその1つ。この森に住むエルフたちは、圧政を敷くファイレクシアへの反乱軍を組織していた。
クロウヴァクス率いる遠征軍は計画性も士気も不十分、スカイシュラウドの指導者「葉の王」エラダムリーの率いる数少ない反乱軍に大敗を喫してしまう。
この間、アーテイとベルベイは6千人もの人質を確保、遠征中の反乱を防ぐ戦術を実行していたことでクロウヴァクスの関心を引くことになる。
クロウヴァクスは「流動石」で人質たちを串刺しにした。この非道はベルベイに実力を思い知らせるには充分であった。だが、彼女はクロウヴァクスの冷酷さに目を背け、再度エヴィンカーの任命を拒否する。
クロウヴァクスを恐れ、なんとかアーテイをエヴィンカーに推せないかと画策していたベルベイだが、ついにはクーデターを起こされてしまう。ベルベイとアーテイの深い関係を既に知っていたクロウヴァクスは、アーテイを人質に取りエヴィンカー指名を強要させたのだった。
翌日執り行われた戴冠式。この時になってまさかの前エヴィンカー・ヴォルラスが帰還を果たす。
ヴォルラスの玉座返還要求にクロウヴァクスは激怒。ベルベイの提案により、エヴィンカーを決めるべく決闘が執り行われた。
ヴォルラス優勢の戦闘だったが、勝敗を決する重要な局面。ヴォルラスの放った魔法が迂回し、クロウヴァクスに勝機をもたらした。
アーテイの仕業である。彼はクロウヴァクスが観衆を虐殺、吸血により回復していたのを目撃したことでクロウヴァクスに利があると見たこと。
さらには、ヴォルラスが勝利した場合は自らを即座に処刑するだろうが、クロウヴァクスに服従すれば生き延びられると判断してのことだった。(実際そうだったが、これ以降はアーテイの物語となる)
こうして、クロウヴァクスは名実ともにエヴィンカーとなった。
第三段階:反乱軍だ!
エラダムリーは、ウェザーライトとの戦闘により大破したファイレクシア軍最大戦力《戦艦プレデター》修復の報を聞くと、反乱軍にとって最大の脅威をまだ脆弱な状態で破壊すべく、捕虜の身となって要塞へ潜入する決意を固める。
計画は順調だった。要塞玉座の間———ファイレクシアの大使たるベルベイの元へ連れられるまでは。
エラダムリーはベルベイの姿を見ると激しい動揺に襲われた。恐怖と、そして、怒りが彼を使命から解き放った。ベルベイを攻撃するも、エラダムリーはすぐに鎮圧され投獄、拷問されることとなる。
ベルベイはなぜ敵地の中心部にて、鎖につながれた捕虜が攻撃を仕掛けて来たのか疑問を抱くのだった。
最終段階:『ネメシス』
次いで反乱軍潜入の報を受けるも、ベルベイは新たなるエヴィンカー・クロウヴァクスへすでに捕らえた反乱軍との会談を望む。
彼女は先の襲撃に絡み、エラダムリーと話す機会を胸に秘めていた。前世の記憶も名前もすべて消去。ファイレクシアで満たされていたベルベイは、ついに自身の起源を聞かされる。
ベルベイの身体となった素材。いわば生前は、アヴィラ。ファイレクシアの工作員に暗殺された、エラダムリーの娘だった。
彼女がラースに馴染んだのも、ファイレクシアに疑義を抱き、異世界へ好奇を委ねたのも、すべてベルベイの起源に由来していたのだろう。
もはや「ファイレクシアの大使」としての機能はない。携帯していた小型ポータルの設定を変更し、エラダムリー、同じく囚われていたタカラ、反乱軍リン・シヴィーらをドミナリアへと逃がす。
その最中。一瞬躊躇した後に。
エラダムリーはベルベイへと毒瓶を投げつけた。
———それは彼の娘を亡き者にしたのと同じ毒。
ファイレクシア人として改造が施されていても即死に至る、強力な毒だった。
ベルベイは、父・エラダムリーの手で亡き娘の骸を弄んだ『宿敵』としてその生涯を終えた。
娘の魂の解放を以て救済を果たしたのである。
よって、ベルベイは救えない。
最後に
※今回はskeb納品物です。リクエストありがとうございました。話が重い。
背景世界の物語により深く興味を持ったきっかけが、かつてMTGwikiで著作権的に危ないんじゃないかと思うほど詳細に書かれた『ネメシス』のストーリー解説でした。(そのせいか、現在では簡素なものになっています)
私の言語化能力に難があるため、わかりやすく読みやすいとは言い難いですが、かつての私のように。本件がカードたちを繋ぐ重厚な物語へと興味を持つきっかけになれれば。先人が紡いだ物語と同じようにその一端となれれば喜ばしく思います。
・参考文献
公式記事-『統率者レジェンズ』の伝説たち その1
MTGwiki(海外)ベルベイ、アーテイ、クロウヴァクス、エラダムリーら関連項目
それと、MTGwiki(日本)にて昔閲覧したが今や現存していない(はず)の『ネメシス』の物語を網羅的に記した項目の記憶。
フレイバーテキスト
skebを依頼した人にも、まとめてくれた今日の一枚さんにも感謝を伝えたいくらい素晴らしかった。
ありがとう!
それでも次元の混乱的なセットなら…
素晴らしい。